はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

ぼーっとしたまま生きていたい 映画「この世界の片隅に」

こんにちは。

話題になった映画「この世界の片隅に

戦争や広島の原爆を扱った悲しい映画でありながら、全体的なほのぼの感、そしてジブリ並みに素晴らしい食事の描写が好みです。

この世界の片隅に [DVD]

主人公は広島から呉に嫁に行ったすずという女の子。ぼーっとしていますが、絵を描くのがすごく得意です。夫、義父母、そして出戻りの姉、その娘ハルミと、つつましやかながら幸せに暮らしていますが、ひたひたと近づいてくる戦争の影。日に日に、空襲の回数も勢いも増していきます。あるときハルミを義父を見舞った帰り道、空襲でハルミと右手を失ってしまいました。激しくなる戦争やハルミの死により心が荒んでいったすず。広島に帰ろうとした矢先、広島に原爆投下。

戦争が終結した後、夫と広島を訪れたすず。右手のないすずを母親と間違えた孤児が寄ってきます。その子を呉に連れ帰るところでお話は終わり。

 

すずはぼーっとしている女の子なんです。ハルミが死に、暮らしが日々厳しくなる中で彼女は、「私をぼーっとしたままにしておいてくれないの!!」と絶叫する。

幸せになるために遠ざけるべきものを知っていますか?ネット、TV、SNSの3つです。ネット、TV、SNSを遮断することで「刺激的な情報に心かき乱される」「人の幸せと自分を比較する」「辛い出来事と向き合う」など不幸な気持ちになることが少なくなります。私だって普段、好きなアニメ見て本読んでだらだら生きていられたらそれでいい。ただ、年金があーだこーだと言われ、世界から何週も遅れたい古臭い教育方針・価値観を子どもに刷り込まされ、世界情勢も微妙になっている今、将来子どもをどう育てるべきか考えるためには、耳をふさいでいるわけにはいかない。積極的に情報収集していると、閉鎖的な現状に暗い気持ちになってしまう。

PTAとかなにこれ?いじめとかあったら学校にも教育委員会にも相手にされずやられ損なの??スクールセクハラとぼかしてはいるけど、ロリコン教師に性犯罪まがいのことされて、それで減給程度かコラ。と「こんなクソクソクソな現実とは向き合いたくないわ!!ほっといてくれ!」と言いたくなります。ただ、閉じこもっていたら遅れをとりますから、現実を見据えなかければならない。

当時も、心穏やかに生きたいのに、男を兵に取られ、残った女も放っといておかれず暮らしにガンガン干渉してくるわけですから、暗澹たる気持ちで日々生きていたと想像されます。そんな中ではぼーっとしてなんていられない辛さ。

 

右手を失ったすずでしたが、みんなが「よかった」と声をかけることに違和感を覚えます。好きな絵を描けなくなって、暮らすのも大変で、なにが良かったよ?そりゃ命取られるよりは良いけど、何がいいのさ。と。

3.11の時、「大丈夫だった?」「家はダメになりましたが家族は生きています」「生きているんだったらよかったね」という会話が何度もありました。え?故郷がなくなったのに?そのせいで仕送りしたり暮らしの立て直しに必死なのに?と。人は何らかの地獄を抱えて生きています。それを想像できないなら、軽はずみに声をかけないほうがいい。第三者は「生」か「死」を比べて「よかったね」と言葉をかけますが、被害者は「今までの生活」と「現実」を比べ、失ったものを数えているんですから。

 

戦争ものということで、かなしい描写が多いので覚悟しましょう。広島から瀕死の体で呉まで歩いてきて力尽きた男性。それを「あらまぁ…」と気の毒がっていたら実は息子だったと後で知った老女。原爆が投下された街を、娘の手を引っ張りながらふらふらになって歩く母親。母親の死後もずっとそばに寄り添う娘。戦後何か月も、広島には別れ別れになった家族を探してさまよう人がたくさんいたとか。ただ、人の醜さがほとんど描かれないので、戦争が見せる人の本性とは対峙する必要がないところは安心。

 

8月がくるまでにぜひ。

おわり。