はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

親子は必ず分かり合えるという幻想 映画「三月のライオン」

こんにちは。

今日紹介するのは、こちらの映画です「三月のライオン」

3月のライオン[前編]

 

原作はまだ続いているのですが、ある程度のところまで前後編にまとめてあります。後編はかなりオリジナルストーリー。

まずはこの映画、神木くんのコスプレ映画として見ても良いでしょう、というくらいファンサービスが過剰。原作ではもっさり系で黒いダッフルしか着ていなかった彼、映画の中では、オシャレな洋服だけでなく和服姿とバッチリキメています。配役はなかなかぴったりで、佐々木蔵之介の島田八段なんかは最高です。伊藤英明の後藤も良かった。

 

原作の内容をまとめると、高校生の零くんは、中学生デビューした天才棋士。彼は幼い頃事故で家族を亡くし、父の友人である幸田に引き取られました。幸田の家には同じく棋士を目指す香子、歩という姉弟がおり、才覚のあった零は彼らから疎まれます。養父は零にばかり目をかけるため、香子や歩は父とぎくしゃくします。養母も零を持て余し気味で、とにかく居心地の悪い幸田家。高校生になると同時に、彼はそんな家を飛び出し一人で暮らし始めます。人との関わりを拒絶しながら生きていく彼ですが、近所の三姉妹との出会いにより、少しずつ変わっていく零、というお話。

 

タイトルにもある通り、家族はわかり合える、わかり合わなければいけないという幻想にあふれた、ちょっと物申したい作品。こういうの、一部では毒親ポルノと呼ばれているらしく、複雑な親子関係で傷を持つ人をさらに傷つける作品でございます。

 

原作は、家族という枠にとらわれず、新しく自分の居場所を作る作品です。将棋以外には自分の居場所がなかった零。家族から距離を置き、様々な人と交わることで自分が居られる場所を必死で探していく。そういう作品。その中で、三姉妹が重要な役割を果たしていくんですね。血もつながっていない赤の他人だけれども、お互いに助け合い大切な存在となっていく。三姉妹も、ろくでもない父親がタカりにきたりと問題を抱えており、父をばっさり切り捨てることも、しかし愛することもできずに苦しんでいます。血のつながりがなくても、お互いにとってかけがえのない存在になれる、というのがテーマ。

しかし映画では、これでもかというくらい幸田家との絡みを出してきます。愛着障害ぎみで年上棋士と不倫中の香子、幸田父、原作ではほとんど登場しない歩、零は進んで彼らとの関係修復に心を砕く。そして三姉妹も父の登場に戸惑いますが、原作では「なんとか父と離れたい」前提で零に協力を仰いでいた彼女たちが、零が三姉妹と父を引き離そうと奮闘するシーンで、「零ちゃんは黙ってて。この人はクソだけど私たちのお父さんなんだよ!」と零を蚊帳の外に押しやります。

いやいやちょっとまって!逆だよ逆。結局家族との絆づくりの話になるわけ?と。

 

小さい頃に負ったいじめの傷は、長い時間が過ぎようが、加害者から謝られようが一生消えないということは広く理解されています。しかし、こと親子関係については、幼い子どもの心をずたぼろに傷つけても、いつか謝罪があれば、むしろ謝罪がなくても、家族であればいつでも過去の清算は可能である、子は進んで親の行為を許すべきであるという風潮があります。私はそれは違うと思う。親に負わされた傷は、いつまでたっても消えず、いつまでも当人を苦しめます。それでも家族がいいと思い関係を修復しようと努めるのも、翼をもがれる思いで家族から距離を置くのも、どちらも正解で、親子の仲は修復すべきという法もありません。

個人的には、親とはわかり合わないままで自分の居場所を作っていくというテーマの映画があってもいいなぁと思うのですが、それはあまり受け入れられないのでしょうか。

 

と、原作ファンにとっては残念な展開でした。

映像的にウケるからなのか、新人王決定戦では賭場にしか思えない場所でアウトローなオヤジに囲まれて将棋を指し、高校生棋士がいとも簡単にタイトルに手をかけるなど、そんなに詰め込まなくても…と思ったりしますが、そんなこを帳消しにするくらい神木くんは最高です。

二階堂は…いろんな意味で衝撃です。

 

あくまでも私の感想なので、原作ファンも原作を知らない方も、一度見てほしいなと思います。

 

おわり。