はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

夢ってなんだ、人生ってなんだ 田山花袋「田舎教師」

こんにちは。
自然主義文学の話で一度触れた田山花袋の登場です。「田舎教師


田舎教師 (新潮文庫)



いい!田山花袋は、写真を見ると、満足感と自信にみちあふれた顔してるから、深~い、暗~い小説を書くイメージがありませんでしたが、「田舎教師」、「重右衛門の最後」の二作品には、すっごく胸打たれ、しばらく立ち直れません。

主人公の清三は、学校を卒業してすぐに、家計を助けるために教師として働き始めます。仲の良かった学友はみんな上級の学校に行くんだけど、自分は教師のまま。このまま少年少女の成長を見て癒される程度の人生で終わっていくのかなぁ、と葛藤する清三の人生。
友のように夢を見たい、恋もしたい、でも、自分の抱えているものがすごく大きい気がして、なかなか生きることに積極的になれない清三は卑屈になり、自棄をおこすことも。

夢を追えとか、ちいさくまとまるなとか、世の中には、でかい夢を見て、成功するために努力することを特に称賛する雰囲気がある。ただのサラリーマンで終わるなとか、家と会社の往復の人生は損とか。しかし、本当にそうか。夢ってなんだろう。人生ってなんだろう。多くの人が通ったみちを丁寧に書き出した名作でございます。

「攻撃は最大の防御」というか、守るよりも攻撃するほうが気持ちは楽です。攻撃は加点方式、守りは減点方式ですからね。夢をがむしゃらに追う時、それこそ、死ぬこと以外かすり傷のスタンスで挑戦できるわけです。加点されていくだけですから。でも、大切なものを抱えてその日常を守ろうと生きる守りの戦いは、達成感もない。ヘタをすれば減点される、減点方式です。今手に持っているものを守るには、という考え方になると、途端消極的になってしまうんですね。

友とは立っている場所が違うわけですから、友ほど向こう見ずには生きられない。上を仰ぎ見ては、自分を嫌いになっていくわけです。子育て中のママとか、大黒柱のお父さん、共感できるところが多いのではないでしょうか。

やっぱり古典っていいな。
おわり。