はらぺこあおむしのぼうけん

読書、映画、ときどき漫画のレビュー。最新刊から古典まで。

クソ母に胸糞悪くなること請け合い モーパッサン「ピエールとジャン」

こんにちは。
最も好きな作家は「モーパッサン」。
私的には冷遇されていると感じる作家の一人。
ゾラもそう。今手に入るのは「女の一生」「脂肪の塊」「ベラミ」くらいで、もう少し多くてもいいのになぁと思っています。
フランス自然主義文学は、ゾラとモーパッサンによって確立されました。現実を客観的にとらえた作風が特徴です。彼の作品に影響を受けた作家は、漱石をはじめ数知れず。日本の自然主義文学といえば、田山花袋永井荷風らが有名です。

現実は、99%期待外れなことからできています。少女漫画のように、好きな男の子が前触れもなく告白してくることもないし、ムカつく女子のことを、「あのアバ○レ、いつか痛い目見るだろう」とか思っていても、ちゃっかり医者と結婚した彼女のセレブアピールをインスタで延々と見る羽目になったり。人は自分に注目していないし、今か今かと機会を窺っている間に老いていきます。勧善懲悪なんてなく、巨悪は巨悪のまま。そのありのままをテーマとしたのが、自然主義文学。読後感は必ずしもハッピーではありませんが、ああ、でもみんな同じような気持ちを抱えているよな、さぁ頑張るか、と諦めがつく作品が多い。
読み解くポイントは、モーパッサンは「厭世観」、ゾラは「運命論」。


ピエールとジャン(新潮文庫)

さて、漱石が、「une vie(女の一生)の比にあらず」と評価した、モーパッサンの名作「ピエールとジャン」。日本では人気がなかったのか、文庫本は売ってないです。新潮文庫Kindleだけ。

ロラン家のピエール(兄)、ジャン(弟)のところに、古い友人マレシャル氏の遺産が転がり込んできた。そこには、「ジャンに一切を譲ります」と書いてある。なんで弟だけなの? という疑問から、もしやジャンはロラン夫人とマレシャルの子では? という疑惑にかわります。ジャンの出自に気づいてしまったピエールは迷います。これを口にすればジャンは傷つくでしょう。
しかし、ロラン夫人(母親)の開き直り感がピエールの絶望を誘い、ついにはピエールがすべて暴露してしまう。それを聞いたジャンは、母をそれでも愛すると誓い、居場所のなくなったピエールが出ていく。

ロラン夫人は臆面もなくマレシャルが一番好きな人と言っていて、実際あんまりピエールを愛してないんですね。あくまでもジャンが一番。おまけとしてピエール。ピエールは卑屈で暗い性格。それはもちろん、ジャンが産まれたときからジャンに愛情が注がれていたからなんでしょう。対してジャンは、愛されて育った坊っちゃんのようで、幸せに生きていく典型。

そしてなぜかロラン夫人は自分が被害者なんです。愛されてしまった私可哀想。好きでもない男の息子を育てる羽目になった私可哀想。それでも私精一杯頑張っているのに、どうして私を責めるの!!!と。とにかく、母として以前に、人間として本当に最低なロラン夫人。好きでもない旦那の子だったとしても、お前の子だろうが。同じ時代を生きていたら、ネットに顔と名前晒して袋叩きにしてやりたいレベルですw 最後にロラン夫人は、「一回の過ちが、人生ダメにすることもあるのね(えへへ)」と完全に開き直り。人生開き直ったもん勝ち。

私的嫌いな登場人物ランキング、ワースト10に入るロラン夫人。
マリアビートルに出てきた王子もきらいだったけど、あとあと海に浮かべられてたからまぁ良いとして、あれでしょ、ロラン夫人は、愛する息子ジャンと二人で楽しく暮らし、ジャンが連れてきた嫁をいびり倒し、介護までちゃっかりしてもらった後、ジャンに看取られながら「いろいろあった人生だっだわ…」と最後までなぜか自分が被害者なんでしょ。その影でピエールは、振り向いてくれない母親の背中を追いかけ続けるのに。お前サイテーか。となります。

世の中自分が傷つけてきた人には目もくれず、開き直ったもの勝ちなんだよねぇ、結局。。。

おわり。