はらぺこあおむしのぼうけん

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山よりも高く海よりも深い母の愛 映画「私の中のあなた」

こんにちは。

大ベストセラーになった小説の映画化です。「私の中のあなた」

 

私の中のあなた [DVD]

 

私は映画を見る前に予告を見たくない人です。「全米が泣いた」とか「この夏最高の」とか「涙が止まらない」とか平気で言っちゃうし、結論を誘導してくるし、何より予告が一番おもしろいからです。でも、見た後はとりあえず予告もチェック。さて、本作品もご多分にもれず「この秋、自分史上最高の涙が…」と。自分史上最高とか結構強気に出ていますが、これはほんと、涙無しには見られない、2時間泣き通しの作品でした。

 

アナには、ケイトという姉がいます。姉はかなり重度の白血病で、腎不全を起こしており、腎臓移植しか打つ手はありません。アナはケイトの腎臓ドナーとして作られました(ドナーベビー)。「だいたいの命は、酒の勢いや避妊の失敗でハプニング的にできるけど、私は違う。子どもを計画的に作るのは不妊に悩む夫婦くらいのものだろう。姉の病気がなかったら、私の命はあったのか」という独白から始まり、アナの体は生まれた時からすでに姉の一部であるという重い荷を背負っていることがわかります。アナは、腎臓提供を含めた自分に対する医療的行為の停止を求め、両親を訴えます。

この映画、腎臓移植をできるか否か、がポイントに思えるのですが、途中で、何かちょっとおかしいことに気づきます。過去や現在が入り乱れるのでわかりにくいのですが、よく見ると、訴訟を起こした時点でケイトはすでに移植に耐えられる体に思えません。じゃあなぜ訴訟を起こしたのか?その真意はどこに?それは最後に明かされます。

 

さて、がん患者の家族は第二のがん患者、って言葉知っていますか? 家族も、がん患者と同様に金銭的・精神的負担を負っているという意味です。精神疾患を患う場合も多いとか。今まで見えにくかった家族の負担について、最近は目が向けられているそうです。

本作品も、アナ、ケイト、ジェシー(アナの兄)、サラ(母)、ブライアン(父)それぞれの視点から語られる家族の闘病日記的な側面があります。「我が家の一番の関心事項は私の白血球数値。ジェシー失読症は二の次」と、子どもたちもそれぞれ寂しさを抱えて生きているようです。

 

私が一番共感してしまったのは母親。

「私の14年間の戦いはどうなるの?」

特にこのセリフです。他の家族とは温度差があるんですね。他の家族は心のどこかで、ケイトの死を受け入れようとしています。しかし母親は、ヒステリックで、ケイトを含め他の家族の意向を無視して突っ走る。ケイトの病状が悪化しても、ホスピスへの入所や一時帰宅を拒否。「あの子は移植をして助かるの!」と強硬に主張して譲りません。彼女はケイトの病気が分かった時からずっと戦い続けている。ドナーベビーを作ろう、仕事をやめよう、食事にも出来る限りこだわって、異論を唱える夫の口を封じ、アナやジェシーの心が離れようとも、ケイトのためにずっと戦っているのです。

あるとき、「あなたは最後まであきらめない母親でいたいと必死で戦っている。それ以外のものは何も目に入っていない」と諭されるサラ。しかし、ケイトの死を受け入れることはできない、と答えます。

 

孤軍奮闘し、病院スタッフや家族からも遠ざかっていくサラの姿を見て、ケイトは心を痛めます。自分のために必死になっている家族の姿なんて見ていられませんから。

その反面、子の死を受け入れる準備ができる親なんていない。受け入れられるわけなんてない。どんなに選択肢がなくなっても、必死に策を考える。多くの母親はそうでしょう。そういう点では、病気と一番最後まで戦ったのはサラだったのかもしれません。

 

アナは姉の死で得たものなんてない、ただ、私には素晴らしい姉がいたといういうだけだ、と姉の死を理解します。小説や映画の中には、人の死に大きな意味を持たせ、残された人間の人生に奇跡を起こすものも多くありますが、悲しいかな、実際はこんなところでしょう。死は、ごくごく身近な人に時々思い出されること。死は死。無。そういう点で、死とは何か?を飾らずに表現した作品と言えると思います。

 

そうそうそうそう、

冒頭に映画予告の話をしましたが、この予告、「一度壊れかける家族が再度まとまる」みたいなことを言うんですよ。でも、劇中に、「姉の死で、家族が生きていくきっかけを得た?そんなことはない」「ただ姉は青空になっただけ」という独白があり、もうちょっとよく見ろやって思ったものです。

 

最後はdisってしまいましたが、

子どもの演技がうますぎてほんと、直視できない。涙が止まりません。

人によって感情移入できるポイントが違うはず。一度は見てもらいたいです。

 

おわり。